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高級文房具になるITコンサルタントの構造——AIが侵食する2つのインプット

目次

ある朝、クライアントの役職者から1通のメールが届きました。AIにディープリサーチさせた結果が貼り付けられていて、「これをパワーポイントに資料化してくれ」と書いてあります。一瞬で背筋が冷えました。ぼくたちは技術系のITコンサルタントとしてこの案件に入っているのに、降ってきたのは「AIの出力を清書する」という単品タスクだったからです。

冷静に分解してみると、これは単発の事故ではなく構造的な必然でした。ITコンサルタントの価値は「技術的専門性」と「クライアントのコンテキスト」という2つのインプットで成り立っているのですが、いまその両方が同時に崩れています。残ったのはドキュメント作成のスピード——つまり「高級文房具」としての価値だけ。ここでは何が起きているのか、なぜ若手が構造的に詰むのか、そして抜け出す道はどこにあるのかを、現場の実例から順番に解体していきます。 参考 コンサルタントはAIで要らなくなる

クライアントがAIのレポートを「資料にしてくれ」と送ってきた
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IT統合計画策定の案件で起きた話です。10個の性質の異なる領域がスパゲッティのように絡み合うタイプのプロジェクトで、ぼくは全体のプログラムマネジメントを担当していました。各領域の技術議論は領域担当のメンバーに任せ、キーポイントだけをレビューする体制で動いていたのです。

そんな最中、ある領域を司るクライアントの役職者から件のメールが届きます。中身を見るとAI(おそらくMicrosoft Copilot)でディープリサーチした出力がそのまま貼られていて、依頼内容は「これをパワーポイントにしてほしい」。念のため別のAIに同じテーマで検証させてみたのですが、内容の精度自体は概ね正しいのです。

その瞬間に察しがつきました。クライアントは技術議論のドラフトを自前のAIで作り、外部の技術コンサルであるぼくたちのチームを「壁打ち相手」として使い始めている。そして資料化という工程だけが、こちらに「お恵み」として降ってくる構造に変わっていたわけです。

技術系コンサルタントの立場から見ると、これは死刑宣告に近い出来事でした。冒頭の依頼は単なる雑用ではなく、自分たちの存在価値がどこに収束していくかを示す予兆だったのです。

ITコンサルタントの価値は2つのインプットで成り立っている
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通説では、ITコンサルタントの価値は「専門知識×経験×ロジック」のような曖昧な掛け算で語られがちです。ぼくはこれを、実務に即して2つのインプットに分解しています。技術系のITコンサルが提言を組み立てるとき、頭の中で混ぜているのはこの2つだけです。

  1. 技術的専門性 — 最新の技術動向、選択肢の幅、ベストプラクティス、よくある落とし穴。自社のナレッジベースや経験値から引っ張ってくる「外から持ち込む知」
  2. クライアントのコンテキスト — 社内システム構成、業務部門の優先度、過去の経緯、政治的力学、予算と人員の制約。クライアントの中にしか存在しない「中の知」

この2つのインプットを掛け合わせて「あなたのコンテキストではこの選択肢を推奨します」という言い切りを作る。それがコンサルタントの基本動作です。だから2つのうちどちらかが弱ければ提言は浅くなりますし、両方が揃って初めて「外部に金を払う意味」が成立します。

技術的専門性というインプット
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このインプットは、これまではコンサルファームの内部資産でした。経験豊富なコンサルタントが社内勉強会や案件経験で蓄積し、ナレッジマネジメントの仕組みで若手にも回す——この閉じた循環がコンサルの競争力でした。

クライアントのコンテキストというインプット
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もう片方は、聞き出して構造化することでしか手に入りません。インタビュー、現場観察、資料読み込み、関係者との壁打ち。コンサルが「クライアントより詳しい」状態になることはありませんが、「クライアント自身が言語化できていないことを言語化する」という形で価値を出してきました。

その2つが同時に崩れている
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ところが今、この2つのインプットが両側から同時に侵食されています。しかも侵食の方向はそれぞれ違うので、片方が崩れても片方で補えるという甘い話でもありません。

AIが技術的専門性を代替する
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問いの立て方さえそこそこ正しければ、AIは一定品質のアウトプットを返してきます。冒頭のクライアントが送ってきたレポートを別のAIで検証しても内容は概ね正しかった——これは「AIがコンサルレベルの専門性に到達した」というより「専門性をAIで再現できる程度にコモディティ化した」というほうが近い実感です。

特にIT領域は技術文書がWebに大量に出回っているので、AIにとって極めて学習しやすい領域です。ぼくが10年かけて積み上げてきた知識のかなりの部分は、いまや適切なプロンプトを書ける人なら数分で引き出せます。これを認めるのは正直つらいのですが、認めないと話が前に進みません。

コンテキストはクライアントが永遠に上
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もう片方のクライアントコンテキストはどうかというと、こちらは構造的に勝てません。クライアントは365日24時間、自社のITのことを考えています。社内システムにアクセスできるのもクライアント側ですし、人事異動の機微も、経営層の本音も、現場の不満も、すべて中の人間のほうが先に知ります。

外部のコンサルが情報量でクライアントに勝つ余地はゼロです。教えてもらう側にしかなれない。これは昔からそうでしたが、AI登場以前は「情報を整理する力」「他社事例との比較」で補填できていたわけです。

残ったのは文書作成力だけ——高級文房具の完成
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整理すると、こうなります。技術的専門性はAIに奪われ、コンテキストではクライアントに永遠に勝てない。コンサルの手元に残るのは何か。「ドキュメント作成のスピードが圧倒的に速いこと」と「資料の体裁を整えるスキル」だけです。

これがまさに「高級文房具」の正体です。高い金を払って外部に頼む理由は、内製でやるよりパワーポイントが速く綺麗に出てくるから——それ以上の理由が見当たらない状態。冒頭のメールはまさにこの構図を可視化したものでした。しかもAIにパワーポイント生成機能が組み込まれた瞬間、この最後の砦すら一陣の風で吹き消えます。

なぜ若手ITコンサルタントが構造的に詰むのか
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ここまでの構造を理解すると、若手コンサルタントが置かれている状況の深刻さが見えてきます。ベテランには「経験」「人脈」「胆力」といった逃げ道がありますが、若手にはそれがありません。しかも若手だけに効くダブルパンチが構造的に存在します。

他社事例情報は上級管理職にしか渡ってこない
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コンサルがクライアントに勝てる唯一の情報資産は「他社における検討の方向性」「まだ世に出ていない先行事例」です。これらはクライアントが逆立ちしてもアクセスできない情報なので、ここを活用しない限り高級文房具化は避けられません。

ところがこの種の情報は、社内で厳格に管理されています。最低でも管理職、案件によっては上級管理職以上の立場でないと「この情報を渡していい」という判断がされません。なぜならこれらは他社の意思決定事項であり、説明責任と結果責任を負える立場の人間しか扱ってはいけないものだからです。

その結果、若手は「唯一の差別化情報」へのアクセスを構造的に遮断された状態で現場に放り込まれます。これでは高級文房具トラックに勝手に乗せられているのと同じです。

技術に逃げてきた代償
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もうひとつのダブルパンチが、技術系コンサルタントの心理的な性質です。ぼくの観察では、技術コンサルになる人の一定数は「人間関係の面倒くささ」や「合意形成のドロドロ」から距離を置きたくて、ロジックで決着がつく技術の世界を選んでいます。

しかし高級文房具化を回避するもうひとつのルートは、まさに「人を動かす力」「合意形成」「意思決定支援」という、人間の面倒くさい部分に正面から踏み込む方向です。技術に逃げた人間が、技術がコモディティ化した後にもう一度「逃げた先」に戻らなければいけない——この心理的なねじれが、若手の動きを鈍くします。 参考 コンサルは成功者に巣食う寄生虫なのか

実をいうと、ぼくの周りでも「ロジックで決まる仕事だけやらせてください」と無自覚に言い続けている若手をたくさん見てきました。彼らに悪気はありませんが、その態度のまま2年経つと、技術でもAIに勝てず、人を動かす経験もないまま、本当に何も残らなくなります。

AIに置き換えられない仕事の正体——意思決定という感情労働
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では何が残るのか。ここで通説の「ソフトスキルを磨こう」という抽象論を一段解体する必要があります。残るのは「意思決定」という仕事ですが、これは「決断力」のような英雄的な能力ではなく、もっとドロっとした感情労働です。

「決める」ということの複雑さ
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ある領域メンバーにAIを使って会議資料を作ってもらったことがあります。会議の目的と獲得目標を伝え、「AIと壁打ちしながらアジェンダを設計してみて、結果が出たらレビューする」と指示を出しました。何が起きたか。AIとの壁打ちが無限ループに陥り、何時間経っても結論が出てこなかったのです。

これは「分かっている人なら5分で終わる」のに「分かっていない人だと無限ループに陥る」典型例です。決めるという経験を積んでいない人にAIを渡して「決めるための資料を作って」と指示しても、判断軸がないので無限に検討が続きます。決断は能力ではなく、「決めた経験の蓄積」なのです。

責任ある選択に人を連れてくる段取り
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意思決定はロジックだけでは進みません。関係者全員を「同じ船」に乗せる段取りが必要です。背景知識のレベルを揃え、ロジックの前提を共有し、論点を1つずつ潰し、結論の妥当性を頭で評価できる状態まで連れてくる。そのうえで「決めることで自分にどんな負荷がかかるか」という感情と恐怖を一緒に整理してあげる——これが、意思決定支援という仕事の実態です。

文句は言うけれど責任は取りたくない、自分で決めるのは嫌だ——これが日本企業の人間の体感3割くらいです。日経企業を相手にコンサルティングをする以上、このしがらみからは逃れられません。ロジック1本で正しさが導出できる技術の世界とは、まったく別の世界です。

AIで無限ループに陥るメンバーが示すもの
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冒頭のメール案件で皮肉だったのは、その後の顛末です。資料化タスクをチームリーダーに振って役割分担を考えてもらった結果、AIとの壁打ちで無限ループしていた本人が手を挙げ、高級文房具タスクを自ら引き受けることになりました。

技術と資料作成でやってきた人間が、高級文房具タスクに自ら手を挙げる。これは個人の選択というより、構造が個人を「文房具レーン」に押し込んでいることの証明です。意思決定の感情労働から逃げ続ける限り、AIが残してくれる仕事は文房具タスクだけになります。

高級文房具から抜け出す3つの道
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ここまでの構造を踏まえると、抜け出す道は3つに整理できます。どれも「ソフトスキルを磨こう」のような綺麗な話ではなく、これまでの自分の専門性を半分捨てる覚悟が要る道です。

  1. 意思決定の世界で生きる — 感情労働と結果責任を引き受けるシニアコンサルの仕事に振り切る道
  2. 超高速プロトタイピングで価値を出す — 技術力を保ちつつ、事業と業務の世界まで踏み込んで「動くもので合意形成する」スタイルに転じる道
  3. 業務・事業特化の技術判断者になる — AIの出力をレビューし、アーキテクチャと事業方向性を結びつけて意思決定できるエンジニア/アーキテクトになる道

意思決定の世界で生きる
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人間関係のドロドロに踏み込む覚悟ができる人向けの道です。ぼくの見立てでは、意思決定型の仕事を身につけるには相応のスパルタな環境で最低半年はかかります。これまでの技術的専門性をいったん棚卸しして「全部ゼロから学び直す」覚悟が必要で、そこを越えられるかは本人の人生観の問題でもあります。

超高速プロトタイピングと実績で価値を出す
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技術力で振り切る道ですが、純粋な技術論で勝負するのではなく「動くもの」で議論を進めるスタイルです。要件定義書の往復ではなくその場でモックを作ってクライアントと合意形成します。ピュアな技術コンサルとは仕事の進め方が根本的に違います。Efficiencyを突き詰める形と言っていいでしょう。

さらにその先を行くのが、昨今話題のFDE(Field Deployed Engineer)という職種です。モックだけでなくその場で実物で価値を出し成果報酬をもらうモデルです。ここまでくるとTransformationの世界に入ります。

業務・事業特化の技術判断者になる
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AIが出してくる技術選択やコードに対して、事業の方向性と業務の制約を踏まえてレビューし判断できる人間になる道です。技術の中に閉じず、技術の先にある業務・事業まで足を踏み入れることが条件になります。技術だけに居続ける限り、IT専業のコンサルティングは2年で賞味期限が切れる——これは別の場所でも書きましたが、今回の件でその感覚はさらに強まりました。

まとめ:高級文房具から抜け出すには、2つのインプットの外に出るしかない
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ITコンサルタントの価値は「技術的専門性」と「クライアントのコンテキスト」という2つのインプットで成り立っていて、その両方が同時に侵食されているからこそ、残った文書作成スキルだけが目立って「高級文房具」化が進みます。若手はさらに「他社事例情報のアクセス制限」と「技術に逃げた心理的代償」のダブルパンチで構造的に詰みやすい。

抜け出す道は「意思決定の感情労働を引き受ける」「超高速プロトタイピングで動くもので議論する」「業務・事業特化の技術判断者になる」の3つで、いずれも2つのインプットの外側に出る選択です。

ぼく自身は件のメール案件に対して、次の提案書ではピュアな技術議論を完全に外し、組織と人を動かすところに全リソースを振った内容を準備しています。ROIとTCO圧縮、PL影響の最小化を軸にして、差別化ポイントを非技術領域に完全移動させる提案です。高級文房具扱いされた仕返しは、文房具の精度を上げることではなく、土俵そのものを変えることでしかできないからです。

NAE
著者
NAE
IT戦略が専門の外資コンサル。「こうしたほうが早くない?」が口癖の効率化マニア。目指す人物像は三国志の左慈仙人。詳しいプロフィールはこちら

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