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コンサルチームの[モチベーション管理](/motivation-antenna/)は、思考の健康管理である

目次

チームの若手が「AIについては、思うところがあって」と言葉を濁したとき、ぼくはそれを「やる気が下がっている」という問題だと受け取りました。でも、違ったんです。

下がっていたのはやる気ではなく、思考の体力でした。

ぼくから見ると、コンサルタントのモチベーション管理とは、励ましでも目標設定でもなく、思考の健康管理です。チームが何に消耗し、何で回復するのか。その前提に触れない限り、どんな声がけも空回りします。

「AIについては思うところが」という言葉の含み
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入社2年目のメンバーとの1on1で、AI活用の話になったときのことでした。普段はよく喋る人が、そのときだけ「AIについては、思うところがあって……」と言ったきり目線を落とし、続きを促しても「うまく言えないんですけど」と返すだけでした。

ぼくは最初、これを評価への不満か業務量の問題だと思い、働きかけ方もそっちに寄っていました。でも、言えない不安は、言える不満よりずっと深いところにあります。

不満なら言葉になります。「残業が多い」「アサインが不本意だ」は口に出せます。問題が外にあると認識できているからこそ言語化できる、ある意味で健康な状態です。

ところが、あのときの「思うところがあって」は不満ではありませんでした。

正直に言うと、ぼくはしばらく経ってからやっと気づきました。あれは「自分がやってきたことが、数年後に無価値になるかもしれない」という不安だったんです。リサーチ、資料作成、論点整理。入社して必死に身につけたスキルが、生成AIによって足元から溶けていく感覚。

その不安は不満と違って、向かう先がはっきりしません。だから言葉にならず、含みのある沈黙になります。

モチベーションが下がっているチームの厄介さは、本人すら原因を言語化できていない点にあります。表層は「なんとなく元気がない」、深層は「自分の存在価値が揺らいでいる」。この2層のズレを、ぼくは長いこと取り違えていました。

「免疫思考」が教えてくれた、なぜ不安が消えないのか
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チームの空気をどうにかしたくて、ぼくは関係なさそうな記事まで読み漁るなかで「免疫思考」という概念に出会いました(StudyHacker の記事で紹介されていたものです)。借り物の概念ですが、あのチームの状態を説明する道具として、これ以上のものはありませんでした。

免疫思考とは、変化を阻む心理的な防衛反応
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免疫思考をぼくなりに要約すると、人が変わろうとするときに無意識に働く「変化を止めるブレーキ」のことです。

体の免疫が異物を排除するように、心も「これまでの自分」を守ろうとして、変化につながる行動をひそかに妨害します。本人は前に進みたいのに、もう一つの目標が水面下で逆向きに引っ張る。だから努力しても進まず、その停滞がさらに不安を生みます。

ここで腑に落ちたのは、不安の正体が「AIそのもの」ではなかった点です。AIは引き金にすぎません。本当に守られているのは「これまで積み上げてきた自分のやり方」であり、それが脅かされることへの防衛反応が、あの沈黙の正体でした。

「AIにできないことがある」という論こそ、免疫反応かもしれない
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ここで一つ、自分の業界に対して言いにくいことを書きます。

世の中の「AI時代のコンサルタント論」の多くは、AIにできること/できないことを整理し、「人間にしかできない領域がある」と結論づけます。感情の理解、利害調整、責任、問いを立てる力。たしかにその通りだと思います。

でも、ぼくから見ると、この論の使われ方の多くは免疫反応そのものです。「人間にしかできないことがある」という命題は、安心するために使われた瞬間、思考を止める道具に変わります。「だから自分は大丈夫」で終われば、それは変化を拒むブレーキでしかありません。

実は、不安が消えない最大の理由はここにあります。安心しようとするほど、心の奥では「本当にそうか?」という声が消えません。防衛のために唱えた言葉が、かえって不安を温存します。だから何度同じ記事を読んでも、チームの体力は戻らなかったのです。

モチベーション管理は、思考の健康管理だ
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ここまで来て、ぼくはようやく自分の役割を捉え直しました。管理職がやるべきは「やる気を上げる」ことではなく、チームの思考が消耗するパターンから回復するパターンへ切り替わるよう、前提に触れることです。

思考のパターンで、体力は変わる
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同じ事実を前にしても、思考のパターンによって消耗度はまるで違います。ぼく自身を観察して、はっきり2つに分かれると気づきました。

  1. 消耗する思考 「AIに奪われる」を出発点にする。守れるかどうかの防衛戦になり、減点法でしか評価できず、考えるほど体力が削れる
  2. 回復する思考 「AIで何をもたらせるか」を出発点にする。道具が増えたという加点法になり、試すこと自体が前進になり、考えるほど体力が戻る

どちらも同じ現実を見ています。AIは進化したし、コンサルの一部業務は代替される。事実は一つです。違うのは出発点だけ。守りから入るか、もたらすことから入るか。この一点で、思考が体力を奪う方向に回るか、取り戻す方向に回るかが決まります。

ぼくが「思考の健康管理」と呼びたいのは、この出発点を回復側に戻す働きかけのことです。

管理職の介入点は、励ましではなく前提
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では、管理職はどこへ手を入れればいいでしょうか。

励ましは効きません。「君なら大丈夫」「AIは怖くない」は本人の防衛反応をなぞるだけで、出発点を一ミリも動かさず、むしろ「わかってもらえていない」という距離を生みます。ぼくはこれで何度か失敗しました。

効いたのは、前提に触れる問いでした。あの2年目のメンバーには後日「AIで自分のリサーチが速くなったとして、その時間で誰に何を返したい?」と聞きました。すると防衛戦の文脈から、もたらす側の文脈へ、本人の言葉がゆっくり動き始めたんです。

ポイントは、不安を否定しないことです。否定は防衛をさらに固めます。否定せず、思考の出発点だけを「奪われる」から「もたらす」へずらす。これが、ぼくの見つけた介入点です。

チームに渡したい一つの問い
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このアプローチには反論があります。「出発点を変えるなんて精神論だ。AIで本当に仕事が減るなら、思考をポジティブにしても現実は変わらない」。その通りです。免疫思考の捉え直しは、雇用や業務量という現実を解決しません。

でも、ぼくが扱いたいのは現実そのものではなく、現実に向き合う体力のほうです。防衛戦の思考で消耗しきった人は、目の前のAIを学ぶ気力すら失います。一方、もたらす側に立てた人は同じ脅威を「使える道具が増えた」と捉え、自分から手を伸ばす。現実を変える行動は、いつも後者から出てきました。だから精神論ではなく、行動の前提条件の話だと思っています。

そのうえで、チームに渡したい問いはこれです。

「AIに何ができるか」ではなく、「AIを使って、自分は誰に何をもたらせるか」。

前者は防衛の問いで、答えるほど自分の領分を値踏みすることになります。後者は回復の問いで、答えるほど自分の役割が更新されていきます。

この問いを起点に、ここまで辿ってきた話を一度整理しておきたいと思います。

まとめ:モチベーションを上げるとは、思考の出発点を回復側に戻すこと
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コンサルチームのモチベーション低下は、やる気の問題ではなく思考の健康の問題でした。

AIへの不安は、変化から自分を守ろうとする免疫反応です。「人間にしかできないことがある」という正しい命題ですら、安心のために使えば思考を止めるブレーキに変わります。だから何度安心しようとしても、体力は戻りません。

管理職にできるのは、励ますことでも目標を立て直すことでもなく、思考の出発点を「奪われる」から「もたらす」へずらすこと。前提に触れる問いを渡すこと。

あなたのチームのその沈黙は、やる気が落ちたサインでしょうか。それとも、思考の体力が削られているサインでしょうか。

NAE
著者
NAE
IT戦略が専門の外資コンサル。「こうしたほうが早くない?」が口癖の効率化マニア。目指す人物像は三国志の左慈仙人。詳しいプロフィールはこちら

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