東洋経済のこちらのニュースを読みました。
「業務過多問題」を「長時間労働問題」にするな | ワークスタイル | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
言っていることは半分正しいんですが、生産性・効率化マニアなぼくとしては黙っていられないポイントがあります。
ホワイトカラーは「作業」じゃなくて「仕事」をしなさいと。
長時間労働における構造的問題はたしかに存在する
この記事は労働生産性の高い国とそうでない日本を比較したうえで、ビジネスの構造的な違いや失業率などに基づく数字のマジックについて論じています。
ノルウェーは北海油田を擁する産油国。オイルマネーを元手に国営企業が経済を回し、東京都の半分以下の人口を支えるのだから効率がいい。ルクセンブルクはユーロ圏の金融センターでありながら人口はたった50万人。一方、近年スペインやイタリアの時間当たり労働生産性が向上しているのは、失業者が増えて計算式の分母が縮小しているためというから身も蓋もない。
日本にはそもそも天然資源がないので、人という資源を大量に使う必要がある。しかも現在は利益率の高い花形の業界が存在しないという構造的な問題もある。
たしかに、このような背景はあまり焦点が当てられないため、そうだよね、と読んでいて思いました。
ホワイトカラーの長時間労働の原因を構造的問題と断じるのはおかしい
しかし、ぼくが一番ツッコみたいのはこの部分。
トヨタの「カイゼン」に代表されるように業務はすでに極限まで効率化されている。
仕事の仕方にメリハリをつければたしかに能率は上がるが、徹底した業務効率化の過程で、そんなことはすでに多くの人が実践している。
ちょっと待て
ちょっと立ち止まって、ぼくの話を聞いてください。
ホワイトカラーの仕事は本当に効率化されているのか
日本企業の大部分が「カイゼン済」とするのは乱暴がすぎます。
未だにカイゼン関連の本が出版され続けている事実を見ると、全体で見ると日本企業は未だ「カイゼン途上」であるとするのが正しいでしょう。
カイゼン本は古いものは2007年に、
新しいものであれば2016年発売のものもあります。
ホワイトカラーの仕事に「カイゼン」効果があるかは怪しい
さて、では具体的にどこが「未カイゼン」なのか。
ここではわかりやすいように、ホワイトカラーとブルーカラーという言葉を使います。
- ブルーカラー:肉体労働者。成果と作業量が比例する。
- ホワイトカラー:頭脳労働者。成果は必ずしも作業量に比例しない。
日本では平成19年時点でホワイトカラーが54.7%、ブルーカラーは42.0%という統計が出ているそうです。
一方、仕事には3つの側面があります。
- 決める:意思決定。なにをやるのかを決める。
- 伝える:決められたこと人に伝え、人を動かす。
- 作業する:定められた仕事をこなす。
ホワイトカラーほど1や2の比重が高く、ブルーカラーほど3の割合が増えます。
で、ここで改めてカイゼンという言葉の定義を確認してみると、どう見てもブルーカラー向けなんですよね。
おもに製造業の生産現場で行われている作業の見直し活動のことを指します。作業効率の向上や安全性の確保などに関して、経営陣から指示されるのではなく、現場の作業者が中心となって知恵を出し合い、ボトムアップで問題解決をはかっていく点に特徴があります。
「3.作業する」であればカイゼンはそのまま使えるかもしれませんし、そこそこ浸透もしているとも思います。
しかし「1.決める」「2.伝える」においてどこまで適用可能かはそもそも怪しい。
ホワイトカラーとブルーカラーの仕事の性質の違いを無視し、長時間労働問題に対してカイゼンをそのまま当てはめて「極限まで効率化されている」と論じるのはちゃんちゃらおかしい話なんです。
ホワイトカラーの長時間労働の原因は「思考停止」
では、ホワイトカラーの労働生産性が低いと仮定した場合、一体何がいけないのか?
ぼくはホワイトカラーが思考停止に陥っていることが原因だと考えています。
- 本来考えるべき人が作業に集中しすぎている
- そもそも仕事や組織設計がなっていない
ひとことで言うと、未熟ってことです。
考えるべきことを考えず、作業に集中しすぎている
そもそもね、先ほどお話したとおり、ホワイトカラーは決めることと伝えることが仕事の大部分なはずなんですよ。
でも日本のホワイトカラーはなぜか作業の効率化が大好き。自分をブルーカラーと思っているんですかね?
このことを如実に表すのが、はてブの人気エントリーの傾向です。作業の効率化に特化したエントリーに対しものすごい数のはてブが集まるんですよね。
- Excelの効率的な使い方とか
- ショートカットキーの一覧とか
- もっと直接的には作業効率化とか
こういうエントリーをブックマークする人に対して声を大にして言いたい。
あなたは頭脳労働者なんだから、もっと考えて下さい
そして「ものごとを決めて伝える」部分の効率化こそ目を向けて下さい
たとえば
- 物事を決めるまでのアプローチをきちんと考えて段取る
- コミュニケーションのリードタイムやボトルネックを把握して解消する
とか、できることはいくらでもあるはずですよ。
作業効率だけ高めても仕事の早さは3倍になんてならないのです。
仕事と組織の設計がなっていない。本来必要なものの定義が曖昧すぎる
そして、日本企業のホワイトカラーな方々と仕事をしていて感じるのは仕事の定義がひたすら曖昧だということ。
- ものごとを計画し、決めることが仕事のはずなのに、なぜか作業に追われている
- 定められたことをこなすのが仕事のはずなのに、なぜか意思決定に参加している
そんな実情を知ってか知らずか、わけわからない縦割りセクショナリズムにひた走る人もいたりして、根拠レスに「これ自分の仕事じゃないっす」とか言ってしまって雰囲気悪くなって全体の仕事効率が落ちる、とかね。最も良くないパターンです。
なぜそうなるのか?
本来考えられていてしかるべき、仕事と組織の設計がなっていないからです。
設計されてない場当たり的な仕事は効率の低下を引き起こす
そもそも、プロジェクトなりなんなり、仕事を始めるときに絶対に決めなければいけないのが
- 現状と目指す姿 (As Is and To Be figure)
- アプローチと計画 (Approach and Plan)
- 組織図 (Organization Chart)
- 役割分担 (R&R: Role and Responsibility)
- 作業定義 (WBS: Work Breakdown Structure)
の5点セット。いわゆる仕事の設計です。
これらが決まっていない仕事は仕事として成り立ちませんし、これが関係者全体に浸透していないとうまくいかないです。絶対。
特に組織図と役割分担がないと誰が何を決めるorするのかがわからなくなり物事が進みません。
その都度誰が何をやるのか相談して調整して折衝して、あわよくば共通の上司に判断仰ぐ、なんてことをやっているとしたら、非効率なことこの上ない。
仕事の役割・責任分担の前提となる組織設計が曖昧
そして、仕事の設計の前提となるのが組織設計です。組織の設計や人員の配置を検討する際、必ず以下の4セットを作ります。
- 組織図(Organization Chart)
- 組織ごとのミッション(Role and Responsibility)
- 各組織のメンバーに求められるスキル(Skill and Capability)
- 各メンバーのなすべき仕事(Job Description)
組織がなにをなすべきかからスタートし、それをさらにツリーで砕いて個人レベルまで落とす。
そして最下層のJob Descriptionがその人の仕事内容になりますし、そのポストに適切な人がいなければ採用を行ないます。
企業が個人に求める仕事の内容はかなり事細かに定められているのです。
ホワイトカラーはやるべきな作業ではなく、仕事を動かす仕組みを考えること
とどのつまり、
仕事の全体設計や、その前提となる組織設計ちゃんとやってください
その上で関係者や自分の役割を把握した状態で仕事してください
ということです。
なんでもいいからチーム一丸だ、という体育会的な精神論は、個人のやる気を高める=作業効率には貢献するかもしれませんが、「仕事」の効率化には一切役に立ちませんから。
やる気を見せるためにいらぬ会議にずっと出席する/させるとか、誠実さアピールのため不要な高品質を追求するとか、全くもってスマートではありません。
成果に貢献しない行いは抹殺し、「すべての仕事には意味がある」状態を作るべきなのです。
まとめ:長時間労働を構造問題に帰する前に、まず頭を使え
というわけで、ホワイトカラーの長時間労働の原因は思考停止というお話でした。
元記事も良いこと言ってるんですよ。でも、ただ単に構造とかいう大きなしくみのだけせいにするのは「オレは悪くない社会が悪い」と吠え続け、思考停止したあげく何もしないやつと同じです。
構造に文句を言って溜飲を下げるのは構わないですが、それで思考停止してしまうとしたら、ありえないほどカッコ悪いですよ。
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