「敵を知り己を知れば百戦危うからず」
「疾(はや)きこと風の如く
徐(しず)かなること、林の如く
侵掠(しんりゃく)すること、火の如く
動かざること、山の如く」
「呉越同舟」
一度は耳にしたことのあるこれらの言葉、出元はすべて「孫子の兵法」です。
そんな「孫子の兵法」のこども向け版を書店で見かけたので衝動買いしてみたんですが、これが結構よかったので紹介します。
孫子の兵法とは
『孫子』(そんし)は、中国春秋時代の思想家孫武の作とされる兵法書。後に武経七書の一つに数えられている。古今東西の兵法書のうち最も著名なものの一つである。
孫子の兵法は2500年前の書物であり、主に国と国の戦をトピックとした戦略書です。
しかし、その底に流れる教えやアイデアは現代でも通用するものばかり。
ナポレオン、武田信玄、ビル・ゲイツや松下幸之助、孫正義も愛読したとされています。
これまでの「孫子の兵法」は難しかった
ぼくが「こども孫子の兵法」を良いと思ったのは、これまで何度か「孫子の兵法」本にチャレンジし挫折してきたから。
「こども孫子の兵法」の話に行く前に、ぼくの失敗談を聞いて笑ってやってください。
曹操注解 孫子の兵法
あの曹操が注釈をつけた孫子の兵法だって!?
というテンションだけで買った初めての「孫子の兵法」本がコチラ。
たしか大学1年生くらいのときだったと思います。
結構なボリュームでしたし、当時のぼくには表現が難しく、ストっと腹落ちしませんでした。
(結局、今も実家の本棚に鎮座したままになっています・・・)
なるほど!「孫子の兵法」がイチからわかる本
大学院の2年生、就活を終え、外資コンサルから内定を得たタイミングで手にとったのがこの本。
「経営戦略を語りたければ孫子は読んでおけ」という先輩からのアドバイスを受けて読みました。
孫子の兵法に記された44の格言について、意味の解説とともにビジネスの現場を題材とした具体例が書かれています。
格言の意味はやさしい言葉で書いていたのでスルッと入ってくるのですが、いかんせんビジネスに触れる機会が少なかったペーペー学生のぼくには具体例がわかりづらかった。
「大事なことはなんとなくわかるけど、どうも納得感が薄い」というのが正直な感想でした。
孫子の兵法=難しいもの、と思ってしまった…
まとめると、これまでチャレンジした「孫子の兵法」本は、解説の表現や具体例がわかりにくく、一発で理解できなかったのです。
この苦い経験のせいで、ぼくの中に「孫子の兵法=難しいもの」というイメージがついてしまいました・・・
結局2冊目の本を買ってから10年弱、ぼくは孫子の兵法から遠ざかってしまったのです。
「こども孫子の兵法」は、ひたすらわかりやすい
しかし「こども孫子の兵法」がその先入観をふっ飛ばしてくれました。
なんせ、読んだ瞬間、腑に落ちたからです。
現存する「孫子の兵法」本の中で一番ライトかもしれません。
まさにとっつきやすさとわかりやすさを極めた「孫子の兵法」の超入門編と呼べます。
言い回しや例がカンタン
たとえば、格言はこんな感じで表現されています。
- 相手を戦いたくない気持ちにさせたら勝ちだ
- 相手を追い詰め過ぎてはいけない
- 怒りにふりまわされてはいけない。どんなときでもクールに判断しよう
- 何かを始めるときは自分が「好きか嫌いか」だけではなく「有利か不利か」でも考えよう
- 意味のある「逃げ」だってある。かなわないならさっさと逃げよう
- ほかの人の意見に振り回されないで自分で決断しよう
これならばこどもで理解できますね。
Amazonのレビューにも小4の子が読んで感心していたというものがありました。
文字が少ない
次に、圧倒的に文字が少ない。
- 見開き1ページで1つの格言をカバー
- しかも右側はほぼ挿絵
- 左側の解説ページも文字がデカい
文字数で言いますと、
- 挿絵ページ:50文字前後(格言)
- 解説ページ:350文字前後(解説+具体例)
と、見開き1ページあたりたった400文字しかありません。原稿用紙1枚分ですね。
ちなみに文庫本だと見開き1000文字程度とのこと。その半分です。
さて、文字が少ない=内容薄いんじゃないの?と思われるかもしれませんが、そうでもないのがこの本のすごいところ。
ここは「ことばの伝道師」と呼ばれる齋藤孝さんの腕の見せ所ですね。
(ちなみに一冊全部で15000文字くらいです)
パッと見で何度も読み返せる
そして大事なのは、おとななら見ただけで一瞬で理解できるという点。
何が良いかというと、何度も読み返す気になれることです。
金言や格言というものは、繰り返し思い出し、口に出すことを通じて、無意識にまで浸透させることで効果が倍増します。
これがもしわかりにくい言葉だとしたら?
読み解いて理解するという脳内作業が必要になってしまいますね。
で、結局繰り返すこと自体が億劫になってしまうんです。
これでは身につくまで時間がかかってしまいますよね。
スキマ時間でぱっと手に取りささっと読めること。
これが「こども孫子の兵法」で超訳された格言たち(そしてこの本)の魅力であり、大人にもおすすめしたい理由なのです。
「こども孫子の兵法」のイマイチな点
とはいえ、わかりやすさととっつきやすさに全振りしたぶん、失っているものもあります。
良くも悪くも入門書
決して内容は薄くはないんですが、いかんせん本は薄く、扱っている格言が24個のみです。
ちなみに
- なるほど!「孫子の兵法」がイチからわかる本:全編から44個
- 曹操注解 孫子の兵法:全編解説
なので、約半分に絞っていることになります。
そのため「こども孫子の兵法」だけ読めば「孫子の兵法」を理解した、ということにはなりません。
少し無理に見える解釈もある?
そして、ほんの一部ですが、解釈自体に対して「ん?」と思う部分もあります。
たとえば
- 原典:「勝ちを見ること囚人の知るところに過ぎざるは善の善なる者に非ざるなり」
- 超訳:「本当にすごいのは誰にも気づかれずに目立たずに結果を出すことだ」
という格言に対して努力は隠すことが美徳と取れる解説がついていたりします。
誰も知らぬ間にすでに勝負がついている、そんな戦い方を目指せ。
というのが原典の伝えたいところじゃないのかなあ、と思いながら、まあこういう解釈もアリか、とも思ったり。
「孫子」は解釈するもの
孫子の兵法は幅広い解釈や応用が可能なもの。
目的によって部分部分をピックアップするのは自然ですし、異なる解釈から新しい学びを得るのは古典活用の正道です。
「強くしなやかなこころを育てる」という目的に沿ったもののみピックアップした。
そして、こども向けの新たな解釈を試している。
そう「解釈」すればイマイチなところも納得ができるものかと思います。
まとめ:こども向けだけどおとなにもおすすめ
というわけで、齋藤孝さん監修「こども孫子の兵法」のご紹介でした。
小学生でもわかる言葉で深いことがさくっと書いてあるため、お子さまへのプレゼントにもいいですし、買った親にも学びのある良書だと思います。
人生のステージごとに異なる学びを得られるのが古典のよさ。
特に学びの多い「孫子の兵法」はそばに置いておきたいものです。
先人の知恵は使ってナンボですから、どんどん活用して高みを目指してみてはいかがでしょうか。
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