仕事、ビジネスにおけるコミュニケーションは、人や組織を動かし、成果を挙げてナンボ。
結局どう言えばこの人に響くのか、動いてもらえるのかということが重要であるはずです。
にもかかわらず、よく耳にするのが「べき論」を言い放つタイプのアドバイスです。
こうすべきだ!とスパッと言い切る「べき論」は、言う方は気持ちがいいしスカっとするものですが、受ける側からするとほとんどの場合、厄介な毒にしかなっていません。
そこで今回は
- 「べき論」とはなにか?
- なぜ薄っぺらい「べき論」の押し付けは厄介なのか?
- 「べき論」を実践的なアドバイスに変えるにはどうすればよいか?
について、お話したいと思います。
「べき論」の意味
べき‐ろん【べき論】
《「べき」は助動詞「べし」の連体形》義務を果たすこと、理想を実現しなければならないことなどを強く主張する論調。「そうするべき」「こうあるべき」という言い回しから。
(出典:べき論(ベキロン)とは – コトバンク)
「義務や理想を実現しなければならない」
とても強く、正しく、魅力的な言葉です。
義務はそもそも果たすものですし、理想も実現するほうが好ましいですよね。
「べき論」の押し付けが厄介な理由
ビジネスのさまざまな場面で放たれがちな「べき論」。
言う側からすると「正しいことを言い切ってやったぜ」という気分になる言いっぷりです。
しかし、ぼくの経験上、そのほとんどが
- ものごとを部分的に切り取ったうえで
- その場で口をついて出てきた
- 的はずれで、薄っぺらいもの
です。
もちろん、中には本質をとらえた正しい「べき論」に出会うことはありますが、きわめてまれなこと。
ほとんどの「べき論」は、いわゆる「思いつき」と同じレベルのものなんです。
このような安易な「べき論」が厄介なのはパッと見、正しく見えてしまうから。
具体例をあげながら、いかに厄介かをお話ししていきたいと思います。
状況を正しく捉えていないのに正しく聞こえる
たとえば、次の3つの「べき論」を見てください。
- 常にプラス思考でいるべきだ
- 政治家は国民感情に配慮すべきだ
- 高齢者には席を譲るべきだ
いずれも、言っていること自体は正しいですよね。
でも、現実的にそうもいかない場合だってあります。
たとえば
- 常にプラス思考でいるべきだ
→ 昨日、最愛の妻を亡くしたばかりの人にそう言える? - 政治家は国民感情に配慮すべきだ
→ その感情的批判への対応に手間どって、本質的な政策議論がとどこおるとしても? - 高齢者には席を譲るべきだ
→ 徹夜での仕事明けの若者に、登山帰りの健脚老人が言っていたとしても?
このように、状況を正しく捉えると、言葉としては正しい「べき論」も全く正しくなくなる場合があります。
紋切り型で放たれるべき論のほとんどは、「実際にどうなの?」という視点に欠けています。
そのため、話が次のアクションに落ちていきません。具体的にどうすればいいの?という議論ができないんです。
べき論を言った人の説得が面倒くさい(特にビジネスの場)
にも関わらず、「べき論」を言う側は個別の事情を棚に上げて「言っていること自体は正しいだろうが!」と押し通そうとしがちです。
同時に「べき論」を言いがちな人は、具体的なアクションのレベルまで視点を落として考えようとする姿勢に欠けている場合がほとんど。
そのため、もし「べき論」をいう人が客のキーパーソンや自分の上司など無視できない人だった場合、なぜその「べき論」は今回は通用しないのかを、超具体的にかみ砕いて説明する必要があります。
たとえば
- 「べき論」で言っていることはわかる
- しかし今回はXXXやYYYという事情がある
- そのため具体的なアクションや実現性まで考慮すると、その「べき論」ではうまくいかない
ですとか、
- 「べき論」を受け入れてアクションプランを練ってみた
- どうしてもココで無理が生じ、余計にコストがかかる
- そのコストを被ってまで「べき論」を通すか、判断してくれ
なんていうストーリーで説明してさし上げる必要があります。
そして、この説明自体はビジネス的に価値を生むものではありません。
べき論を言われた側がブレる場合がある
そして最後に、的はずれな「べき論」でも言葉自体は正しいように聞こえてしまうため、受ける側が一瞬「あ、そうかも」と思ってしまう場合があります。
経験の浅い人にありがちなのがコレです。「そのべき論は今回は当てはまらないよ、なぜなら・・・」というところまで短い時間で判断できないためです。
もし、万が一そういう人が責任ある立場にいた場合は最悪です。ブレた結果、本来進むべき方向から外れてしまうとしたら、とても目も当てられません。
だからこそ、安易な「べき論」アドバイスは厄介なんです。
「べき論」押し付け系上司によく効く3つの逆質問
そんな薄っぺらい「べき論」被害から身を守る3つの逆質問を紹介したいと思います。
もし「べき論」的アドバイスを受けた際に、ぜひこれらの質問を使ってその内容を検証してみてください。
キーワードは、「状況」「アクション」「実現性」です。
なぜそうすべきなのか?を問う
1つ目は、「なぜそうすべきなのか?」という質問をすること。
「なぜ?」を掘り下げることで、その「べき論」が的はずれでないことを検証するのが狙いです。
「なぜ?」とう問いを通じ、
- その「べき論」は、そもそもどんな状況であれば有効なのか
- 自分(相手)の状況と照らし合わせて、その「べき論」は適用可能か
を明らかにします。
これにより、自分(相手)を取りまく環境や心身の状態を正しく理解していない邪魔な「べき論」を排除できます。
もし「なぜそうすべきなのか?」に対して
- 明確な答えが出せない(出てこない)
- 答えはあるが自分(相手)の状況と合わない
のであれば、その「べき論」は有効と言えません。
「べき論」アドバイスを受けた、もしくはする際は、一瞬立ち止まって「なんで?」に考えを巡らせてください。
具体的に取るべきアクションを問う
2つ目は、「具体的にどういうアクションを取ればいいのか?」と質問すること。
「べき論」は理想論や方針レベルのものが多いため、具体的なアプローチやアクションまで考えられていない場合がほとんどです。そんな浅はかなべき論による被害を避けるのが、この質問の狙いです。
先ほど挙げた例で見てみましょう。
- 常にプラス思考でいるべきだ
- 政治家は国民感情に配慮すべきだ
- 高齢者には席を譲るべきだ
3個目は具体的ですが、それ以外は「で、具体的にどうすればいいの?」と聞きたくなりますよね。
「方針は出すけど具体策は知ったこっちゃない」的なアドバイスほど無責任なものはありません
「こうすべきだ」と「こうすればできる」をセットで議論する方が、お互いハッピーですし建設的です。
「べき論」を言う側も言われた側も「で、どうすればいい?」という問いを持つようにしましょう。
アクションの実現性を問う
3つ目はもう少し踏みこんだ質問です。「そのべき論をアクションに落としたとして、現実的に実行可能か?」を問います。
義務や理想を語るのはカンタンですが、それを現実にするのは難しいもの。
特にビジネスの場では、予算や納期などの制約により、理想をすべて実現できない場合がほとんどです。
たとえば、極端な例を挙げると
政治家は国民感情に配慮すべきだ
→ 巷で話題のIoTを使って、全国民の感情を把握するシステムを作るゾ
→ 財源は、言い伝えにある徳川家の埋蔵金だゾ
→ すぐにでもやるべきだから期間は半年だゾ
なんてバカバカしいですよね。
もし実現不可能なアクションしか出てこないなら、その「べき論」は非現実的なアドバイスだということになります。
「べき論」にひもづく具体的なアクションを思い浮かべ、もしくは実際に聞き、実現性を検証するステップを踏むことで、その「べき論」は実践可能なアドバイスに変わります。
その際の議論のしかたとしては
- アクション実現を阻む課題はなにか
- それらをどのように解決していくのか
- かかる期間と労力はどの程度か
- それくらい投資する価値があるのか
といったように、できるを前提とした前向きなものである方が好ましいですね。
べき論に効く逆質問の共通点
以上、
- なぜそうすべきか?
- 具体的なアクションは?
- 現実的に実行可能か?
という3つの質問を通じ、「べき論」を実践的なアドバイスまで落とし込む方法をご紹介しました。
これらの共通点は、アドバイスする相手の状況を正しく把握するという方向性です。
1つ目の質問(なぜそうすべき?)は相手をとりまく状況をリアルに理解していないと答えられません。
2つ目と3つ目の質問(具体的にどうすべき?できるの?)は相手の使える時間や労力、得られる協力などを把握していないと答えられません。
結局はきちんと相手の立場に立ったうえで「べき論」を言いましょうということですね。
これらの3つ質問すべてに答えられるなら、それは実践的な「べき論」と言えるでしょう。
まとめ:押し付けられた「べき論」は一度検証しよう
というわけで、薄っぺらい「べき論」の押し付けを建設的なアドバイスへ変える3つの質問というお話しました。
「べき論」を含め、アドバイスで人を動かすのはものすごく頭を使うことです。
- なぜそうすべきか?
- 具体的なアクションは?
- 現実的に実行可能か?
常にこの3つの視点を頭の片すみに置きつつ、「べき論」の押し付け被害を避けると同時に、自分が「べき論」押し付け系のモンスターをアドバイザーにならないように注意していきたいですね。
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