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「関係の質」重視のチーム運営を続けて1年。利点と反省点をふりかえる

関係の質重視のチーム管理 人と組織

コーチングの世界には「関係の質」という言葉があるそうだ。

いわく

  1. 関係の質が良いと、思考の質が上がる
  2. 思考の質が良いと、行動の質が上がる
  3. 行動の質が良いと、結果の質が上がる
  4. 結果の質が良いと、関係の質が上がる

という好循環が生まれるらしい。

逆に「関係の質」を無視して「結果の質」ばかり求めると、ふとしたミスがきっかけに以下の負のスパイラルに陥るとのこと。

  1. 結果の質が悪いと、関係の質が落ちる
  2. 関係の質が悪いと、思考の質が落ちる
  3. 思考の質が悪いと、行動の質が落ちる
  4. 行動の質が悪いと、結果の質も落ちる

この話はストンと腹に落ちた。理由は、過去に同じような負のスパイラルを経験したことがあるからだ。

・・・

当時の上司は「詰めればなにか出てくる」「出てきたものものを叩けばアウトプットは磨かれる」と考えるタイプの人間だった。(結果の質の重視

ぼくはレビューのたびに極限まで詰められて完全に萎縮してしまい(関係の質の低下)、「どうやって次のレビューを乗り切ろうか」という近視眼的な思考回路に陥った(思考の質の低下)。

結果、資料をいかによく見せるかにばかり注力してしまい(行動の質の低下)、本来のゴールから外れた50点程度のアウトプットを量産(結果の質の低下)。上司のレビューで激詰めされ、以下繰り返し。

・・・

そんな苦い経験から、冒頭に紹介した「関係の質からはじめる」は的を得ていると考えている。

なによりぼくのチームメンバーに、同じ苦しみは味わせたくないと心から思っている。

そのためチームリードの立場になって1年、ひたむきに「関係の質」を重視したチーム運営をしてきた。

本記事ではその結果を共有したいと思う。

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前提:チームを取り巻く環境

2桁億円後半のシステム刷新プロジェクト。大きく5つの領域があり、その1つを任せていただいている。

主たる担当者は、IT部門の部課長級。1年半前の構想策定フェーズからご一緒させていただいている。

担当範囲が領域を横断する特性を持っているため、関係先は担当領域に閉じない。

チーム構成は以下の通り。

  • リード:自分
  • メンバー:3チーム(オンサイト9名+オフサイト8名、うち外国籍3名)
  • 協力会社:6チーム(オンオフ混成、総勢25名ほど。契約上の上下関係はないが、役割上はぼくの配下)

上記環境で、1年ほど「関係の質」を重視したチーム運営をしてきた。

厳密に言えば、最初の半年は結果として「関係の質」に力点を置いており、後半は「関係の質」を明確に意識してチーム運営を行った。

「関係の質」によるチーム運営のよかった点

結果を一言であらわすと「良好」である。

炎上と無縁でいられた

1年間、一度も炎上していない。

もちろん高負荷な時期はあるし、後述する課題の影響で特定の人のみ忙しいこともある。

しかし、平時はきわめて安定している。メンバーの殆どは19時過ぎには帰宅している。

クライアント・協力会社からの信頼を得られた

安定的なプロジェクト遂行の結果、クライアントからの信頼を維持できている。

「発注側」「受注側」という立場はもちろんあるものの、今や役割分担ベースでフラットに頼り合う関係に近い。

特に課長以下のメンバーとは、彼らのキャリア相談や、プロジェクトを超えた社内事情に関する意見交換を行うくらいの間柄である。(プロジェクト外のテーマについて問われた際も、その道のプロとして回答するよう徹底している)

また協力会社の方々とも、少なくとも表面上は良好な関係にある。互いの専門性をリスペクトしあっており、率直に「なにが正しく、どうすべきか」を議論しあえる状態である。

売上高・利益率を確保できた

安定的なプロジェクト遂行、およびクライアントからの信頼獲得の結果として、売上・利益も好調だ。

弊社のビジネスモデルは人月売りであるため、

  • 売上:提案拒否・検収拒否さえされなければ守られる
  • 利益:人員追加・残業超過を避ければ守られる

という前提がある。

そのため、

  • 売上の確保=中長期的な信頼獲得による、後続フェーズや追加案件の継続的な獲得
  • 利益:期待値コントロールに基づくスコーピング・交渉

がキーとなる。

いずれもクライアントとの良好・対等な関係維持が前提だが、それができる環境が作れている、ということである。

高評価者・昇格者が続出した

弊社のチームメンバーの30%が昇格し、他メンバーもプロジェクト内評価では軒並み高評価を得ている。

ぼくのチームメンバーが安定して仕事を進めている状態は他領域リーダーやプロジェクトマネジメント陣にも伝わっているようだ。

(もちろん、ぼくが各年次で求められる水準と実際の働きぶりを比較して高評価を出していた、という側面もある)

「辞めたい・離れたい」が皆無だった

以上の結果から、プロジェクトから離れたい、もしくは会社を去りたいという申し出をメンバーから受けたことがない。

ぼくの見知らぬところで話しているのかもしれないが、正式な申し出は皆無である。

いかに「関係の質」チームを作り、運営したか

一言でいえば、クライアントや協力会社を含む関係メンバーが、のびのびと仕事に打ち込める環境作りに全力投球した、である。

クライアントと対等以上のポジションを取る

まず大前提として、クライアントへ対等またはそれ以上にモノを言える状態を維持した。

具体的には、

  • ハイキックをかまし「こいつは違う」と印象づける(ハイキックは以前に話題になった「錯覚資産」と似た概念で、著書「無理難題」でも触れている)
  • IT部門相手であっても、ビジネスの視座からものごとを語る(視座についてはこちらの記事でも解説している)
  • それでいて、ITアーキテクチャや実装方式など、IT部門が議論できるレイヤまで踏み込んだ実現性議論をリードする

といったポジションを取り続けた。

たとえば社外向けWebシステムの話をするときは、ToBe方針にもとづくB2BとB2Cで追うべきKPIの違いからはじまり、CVR・CPAの考え方、各国ごとのブランディング・訴求特性、各国の個人情報保護法にもとづくリスクの考え方、それらに伴うインスタンス配置、取りうるソリューションのパターン、具体のサーバ構成やインフラ配備、そこまで考慮したコスト最適なのやり方……といった具合である。

IT部門は後者のHow部分はわかるが、前者のWhy/What部分にうとい。そのため後者の話はできることは前提に、前者の視座を保つのだ。

そうすることで、自然と

  • ビジネスとITに関するToBe全般および進め方の案出しはコンサルタント側
  • 現状の実装や社内調整ごとに伴う進め方のフィードバックはクライアント側

という、フラットな役割分担が実際にできあがる。実際に、と書いたのは、提案書時点ではこういう分担を書くことが多いものの、実情は御用聞きに陥るパターンが少なくないからだ。

この関係ができあがってやっと、発注される側のわれわれは、提案金額に関する交渉力、率直で大胆な提言、スコープ超過に関するアラートなど、言いたいことが言える状態になるのである。

この「言いたいことが言える」関係性こそ、ぼくはクライアントとの「関係の質」を高めるキーポイントだと考えている。

協力会社をプロフェッショナルと認める

次に、協力会社の各チームをプロフェッショナルとして認めることも大事なポイントだ。

彼ら・彼女らには、それぞれの「持ち場」がある。持ち場を守ること=タスクをQCDを守って遂行することが彼らの責務であり、矜持でもある。そこにむげに立ち入ることは、彼ら・彼女らの顔に泥を塗ることにほかならない。

そのため、役割分担上はぼくが管理者であっても、彼ら・彼女らの担当範囲は信じて任せることにした。要するに、管理のための管理を含めるマイクロマネジメントをしない、ということである。

具体的には、プロジェクト全体の目的(Why)と、達成事項(What)、他チームとの合流点を含むマイルストンやスケジュール(When)は提示するが、具体的なHowは彼ら・彼女らに任せ、進捗・課題・リスクのみ上げてもらうようにした。

そのうえで、ぼくは彼ら・彼女らの仕事をすすめるにあたって阻害要因になりうるものを片っ端から取り除くことに注力した。

具体的には、チーム内に閉じる課題は彼ら・彼女らに任せ、チームや他プロジェクトをまたぐ課題やリスクはこちらで片付けるようにした。

もちろん、彼ら・彼女らの担当範疇で迷うことがあれば中に入って解決支援を行った。コンフィグやシェルスクリプトのレベルまで入り込んだこともある。ただし、彼ら・彼女らから支援要請があったときだけである。

こうすることで、協力会社の面々は自分の専門性が活きる仕事や正味の仕事に注力できる。タスクをどんどん片付けられ、仕事が進んでいく。

メンバーアサインはキャッチアップ力とカルチャーフィットを重視する

弊社メンバーをアサインする際、前提として「完全にスキルマッチする人間などいない」という前提を置く。

そのため重視するのは、今どんなスキルを持っているか、でなく、スキルを素早くキャッチアップする資質を持っているか、だ。

特に「関係の質重視のフラットなチーム」は個々人が主体的に力を発揮することが前提のため

  • いかに素早く自らの力でものごとを進められる状態に持っていけるか(出力の確保)
  • いかに素早く全体最適・個別最適双方の視点を持てるか(方向性誤りの排除)

が、仕事の成否を分けるカギとなる。

キャッチアップ力を高めるにはいくつか方法があるが、今回ぼくが受け持ったチームの役割上、ポジショニング(視座の高さ)と顧客理解が重要なファクターと考えたため、過去資料をベースに目的意識を植え付けることと、適宜修正・不理解部分を解消していくスタイルが良かろうと考えた。

そのためには、一切の忖度がない軽やかなコミュニケーションをよしとするカルチャーが最もフィットする。

具体的には、

  • 肩書や役割を超えて、正しいと思うことをストレートに発信しあう
  • すべての情報をオープンにし、共有する

ということである。

こういった自由と責任がベースの風土のチーム運営を目指しているとインタビュー等の際に伝えると、実に人が集まりやすい。仕事に前向きに打ち込むための3要素である「自由」「変化」「チャンス」が担保されているように映るからだ。

しかし、そこでしっかりスクリーニングし、本当についてこられる人を見極めることが重要だ。

なぜなら、このスタイルのチームは非常に思考体力が求められるからだ。常にあらゆる情報に触れ、なにが正しいか考え、意見を発信し、議論することで、個々人の視点・観点・思考能力・気づきを活かして最善の仕事をする。これを日々続けていくのだ。タフでないわけがない。

そのため、

  • 自分の担当範囲の中だけで、ちゃんと成果を出せば良い
  • 手持ちのスキルの範囲内で、効率よく仕事をしていきたい
  • 淡々と指示されたことだけをこなしていきたい

という人は、インタビュー時点で弾いている。

逆に、たとえば

  • 伝えたことを素直に理解し、素直に考え、自分の言葉で意見が言えるか
  • 難しい問いに対しても、手持ちの情報から仮説を立てて方向性を出せるか
  • インタビュアーである自分に、反対意見が言えるか

など、全体の方向性と十分なインプットを与えればアウトプットが出せること、ストレートにコミュニケーションできることは非常に重視する。

採用こそがチームのカルチャー、ひいては中長期的なチームの強さを固めていく。キャッチアップ力とカルチャーフィットを重視した採用こそ「関係の質ベースのフラットなチーム」の力の源泉だ。

スキルフィットをベースとした採用は、一時的にならチームに力を与えるかもしれないが、中長期的にはチーム瓦解の原因を作り込むため、「関係の質ベースのフラットなチーム」を作るなら避けるべきである。

3つの地盤をメンテし、迷いや不安を排除する

「関係の質重視のフラットなチーム」を維持するには、3つの地盤があると考えている。

  1. 心理的安全性
  2. 情報流通
  3. 適所適材

具体的な実施事項は後述するが、共通するポイントは、「迷いや不安の徹底排除」ということを念頭に読み進めていただきたい。

心理的安全性

1つ目の地盤は、もはや知らない人は稀と言えるくらい有名な概念となった「心理的安全性」である。(ぼくはよく「自分はここにいいて良いんだ感」「居場所がある感」と言い換えている)

この地盤が1ミリでも欠けた途端、チームメンバーはもとより、チーム全体の生産性はガタ落ちする。

なぜなら、居場所がないのは恐怖そのものだからだ。恐怖=不健全な危機感にさいなまれながら頭や手足を動かすのは、底なし沼で全力ジャンプするようなものである。高所の果実など手が届くはずがない。

「関係の質重視のフラットなチーム」の文脈でいえば、心理的安全性が確保されなくなった瞬間、コミュニケーションの一切が止まる。上司に恐怖した瞬間、自分の意見が表現できなくなり、議論すらままならず硬直し、仕事の質が落ちていく。

メンバーが持っている能力や底力を引き出すには、しっかりした地盤のうえで思いっきりジャンプしてもらうほうがいい。なんならジャンプ力が弱まる時期でも、地盤さえしっかりしていればそれなりに飛べる。

つまり、心理的安全性はあらゆる仕事の地盤なのだ。そのためチームリードとして、心理的安全性が確保されているかは常々チェックし、最優先でメンテナンスしている。

具体的には、

  • 自分は恐怖でメンバーを支配しようとしていないか。そういったメッセージを言語・非言語問わず見せてしまっていないか
  • 自分はメンバーの話を聞くとき、一切の興味関心を相手に向けられているか。目を見て、耳を傾けているか
  • 自分とメンバー、メンバー間はことあるごとに雑談しているか。そのときのメンバーの顔は明るいか
  • メンバーから「私はこうしたほうがいいと思っている」という提案話が定期的に出てきているか
  • メンバーの成功を褒めるのに加え、ともに喜んでいるか。それが相手に伝わっているか。認めているか
  • メンバーを諌める際は事実ベースで話しているか。指摘のみでなく、次のアクションまで一緒に考えているか。一緒に問題解決するスタンスは伝わっているか
  • メンバーの心身の状況をねぎらい、健康維持を仕事の優先度判断に組み込んでいるか

などは、常日頃チェックを心がけている。

情報流通

2つ目の地盤は、情報流通だ。

「関係の質重視のフラットなチーム」において、情報流は血流のようなものである。滞ったらその瞬間、チーム全体の動きが悪くなる。

理由は、正しい情報や今後の見通しが見えなくなることで「念のための確認」が増加し、コミュニケーションのオーバーヘッドが激増するからだ。

車にたとえるとわかりやすい。あなたは果たして、25m先も見えないような霧の中でアクセルを踏み切れるだろうか。「右に進め」「左に進め」の標識が立っている分かれ道で迷いなく「右」を選べるだろうか。先100mが見えており、正しい情報・正しいルート(進め方)を知っている人に「本当にこれで良いんですか」と聞きたくならないだろうか。

この「本当に良いんですか」をそもそも発生させない状態を目指すのが、「情報流通」の目的だ。

つまり

  • 1人1人が先々の見通しについて同じ認識をもっている
  • 仕事を進めるにあたり必要かつ正しい情報にいつでもアクセスできる

ことが、アクセルを踏み切れる=個々人が強みを活かしつつ迷いなく仕事に打ち込める、2つ目の地盤なのである。

そのためには、

  • 今後の見通しをメンバーに伝える機会を定期的に設ける
  • あらゆる情報をオープンにし、検索・アクセス可能とする

の両方を満たさなければならない。

ぼくはこの双方を、意識的にやるよう心がけている。(心がけている、と言っているのは、完全にできているとは言えないからだ)

特に気をつけているのが、「管理職層がなにを考えてこの判断・行動したのかわからない」という、よくある不安の種の排除である。

たとえば、

  • 過去の慣習だけが理由で管理職以上のみに共有されてきた情報も可能な範囲でメンバーに共有する
  • 自分のスケジュールをメンバーへ公開する
  • 役員層とのやりとりも可能な範囲でメンバーをCCに入れる

など、管理職層がどのような情報に触れ、なにを考えているのかは伝えるようにしている。

適所適材

3つ目の地盤は、適所適材である。

適材適所という言葉があるが、適所適材はこの反対にあたる概念だ。

  • 適材適所:役割に人を当てはめる。役割が主眼。仕事をピラミッド型組織に細分化して人を当てはめる
  • 適所適材:人に役割を振る。人が主眼。仕事と人をマッチングさせることを基本軸とし、柔軟に分担を変えていく

たとえるなら、前者は野球、後者はサッカーだ。野球はポジションを完全に固定するが、サッカーは場合によってはゴールキーパーもシュートを放つ。

この考え方の前提にあるのが、「仕事も人も変化する」という背景である。

コンサルタントという仕事の性質上、われわれは常に変化の波を泳がなければならない。時と場合で求められる素質やスキルは変わっていく。プロジェクト開始時点で作った役割分担が後半になるとガラッと変わることはザラにある。(もちろん管理職としてスコープコントロールは行うが)

また、人も当然変化する。具体的には、人生のステージ、キャリア方向性、仕事上の肩書などに基づく、仕事人としての興味関心事項(やりたいこと)である。これが一切変わらないと考えるほうがおかしい。

くわえて、人は仕事とやりたいことがマッチするほど仕事に打ち込めるものだ。好きこそものの上手なれ。はじめは不得手なでも興味関心を持ってやり続ければ生産性は飛躍的に伸びる。逆に手持ちスキルでこなせる仕事でも、興味関心が薄れると70%程度の出力しか出ない。

これらをすべて満たすには、役割に人を当てはめる適材適所より、仕事と人(の興味関心)をマッチングさせる適所適材のほうが合理的なのだ。

定期的な1 on 1を欠かさない

上記、3つの地盤の定期メンテの手法として、メンバーと定期的に1 on 1を行い

  • 今の状況(仕事、プライベートを問わず)
  • 興味関心を持ちやすいこと
  • 提供できる手持ちのポジション・仕事・タスク
  • 具体的にどういった働き方や役回りがComfortableか

をディスカッションすることは欠かせない。

なんせ、メンバーは自分の人生の時間を仕事に投資してくれているのである。その時間を有意義なものにしなければならないし、投資してよかったと思ってもらわなければならない。

であれば当然、相手がなにを求めているかをきちんと把握しなければ話にならないのだ。客の注文を聞かずに料理を出すレストランが繁盛するはずがない。どれだけクオリティの高い料理を出しても、アレルギーや嫌いな食材、気の進まない料理なら拒否される。

だからこそ、メンバー1人1人と時間をとって話す必要があるのだ。

信じて任せきる覚悟を持つ

こうして関係の質を高め、向かうべき方向性を合致させたなら、あとは当人の資質や能力を信じて邁進してもらうのみだ。

リードする立場の自分は道標を立て、ミッションを定義し、メンバーの迷いをなくす。メンバーたちはめいっぱいエンジンを吹かし、ゴールに向かって自分の考える最善のやりかたで最大出力で走っていく。

そのとき、少しばかり道を外してしまっても、黙って見ている覚悟が必要だ。人は車ではない。無駄に細かくハンドルを調整しに入ると、せっかくの出力(=士気ややる気)が一気に冷めてしまうのだ。

したがって、多少やり方が違っても大局的にあっていればそれで良い、と割り切る。最終的に仕事の整合性を確保するのは自分だが、細かなHowはメンバーに任せる覚悟を持つ。

つきなみに言えば、マイクロマネジメントをしない、ということだ。マイクロマネジメントをしてしまう原因は、マネジメントする側の恐怖心だ。アウトカムに至るか怖いから細かい段取りまで指示し管理しようとしてしまう。その恐怖心を乗り越えることが、信じて任せきるための一番のポイントだ。

管理職は管理職として、ドンと構えていなければならないのである。

「関係の質」重視のチーム運営の反省点

とはいえ「関係の質」重視は銀の弾丸ではない。当然、リスクもあれば、運営にはそれなりに苦労する。

特にプレイングマネージャーであることを常とする外資コンサルファームの管理職層には、相当なパラダイムシフトが必要だと思われる。

裸の王様リスク

Howレイヤの話をメンバーに任せるとは、自分自身がプレイヤーを卒業することと同義だ。細かなHowの報告や相談は受けるが、全量を把握してことこまかに指示できる状況にはなくなる。

たとえば

  • メンバーがHowの細かい部分の相談にきても、答えられないことが増える
  • クライアントがHowの細かい話を聞きにきても、自分では答えられなくなる

といったことが起こる。

その結果、わかっていないことをわかったふうに話さなければならず、「裸の王様」のような状態に陥るリスクがあるのだ。みんな見えているが、自分だけ見えていない。

それを乗り越えるには、リーダーである自分のポジションを明確に関係者に伝達することが重要だ。自分は全体の原理原則を守らせる存在である、管理するのは細かなタスクでなくアウトカムとコスト(ROI)である、などだ。要するにキャラ作りである。

当然、場合によってはクライアントがそれを許さないこともある。リーダーに対しプログラムのソースコードの話をしてくる&それを把握することを求めるクライアントも、中にはいる。その場合、遠慮なくチームメンバーに助け船を出してもらおう。リーダーとメンバーの違いは役割分担であり、互いに得意・不得意があって当然だ、というマインドになっているなら、部下に頼るのは簡単だろう。

「強み重視」と「属人運営」は紙一重

個人の強みを活かすことは、個人への依存を強めることでもある。

すると、チーム全体としての生産性はかなりもろくなる。誰かが病欠したときにかわりにできる人がいないため仕事が進まないor進みが遅くなる。こういうことが起こる確率が、メンバーの増加に伴い爆発的に増えてしまうのだ。

ぼくのチームの場合、幸い今この瞬間は、もともと自分がプレイヤーとしてこなしていた仕事を若いメンバーに持ってもらっている形のため、メンバーの病欠はぼくがカバーできている。

しかし、それはあくまでぼく自身の残業時間に依存した運営であって、サステイナブルではない。

個人の強みをメンバー間でシェアし学びあう習慣づけ、もしくはその強みを「仕組み化」する方策を練る必要がある。

チームリードの球拾い

各メンバーの強みにフォーカスして仕事を割り振ると、誰の強みにもあたらず抜け漏れた仕事がどうしても手元に残る。

そういった仕事は、

  • メンバーにお願いする(学びの素材として)
  • 他チームの手を借りる
  • チームリード自らが拾う

のいずれかで対処することになる。

仕事の難易度にもよるが、本来ならスキルのストレッチ(芸風を広げる)を目的に、メンバーに担当してもらう局面が多くなるはずだ。

しかしそこで、仕事とメンバーの「強み」のフィットを過剰に重要視してしまうがゆえ、「結局自分がやったほうが早い」と、リードである自分自身が拾ってしまうことが多かった。

「関係の質」「強み」を重視しすぎるのも考えものである。

スケールの問題

チームメンバーが増えるほど、1 on 1などケアにあてられる時間が増えていく。

じっくり話すとどうしても1人1時間はかかるため、たとえば15人×隔週なら、月30時間=月の1/5近くを1 on 1にあてることになる。日々の指示や連絡とは別で、だ。

これが20人、30人となると、とてもではないが1人では捌ききれない。チーム分割、サブリードの指名、サブリードへのチーム運営委譲も考えなければならない。

今回は、それがうまくできなかった。理由は次セクション。

「優秀な選手」と「優秀な監督」のギャップ

チームをスケールしようとすると、どうしても「優秀な選手は、必ずしも優秀な監督にはならない」という問題にあたる。

ぼくのチームには、管理職レベルになるべきクラスのメンバーが何人かいる。きわめて優秀で、日々の仕事は手放しでこなし、リスクの露払いが必要なときのみ相談をくれる。ほぼ責任を委譲する形で役割分担ができていた。

そこで彼ら・彼女らにサブリードとしてチーム管理を任せてみることにした。すると、全く異なるマネジメントスタイルでチームを動かし始めた。

これまでを個人技を光らせることを是とする「バスケットボールチーム型」だとすると、彼らは上意下達の軍隊方式を是とする「ベースボール型」でチームを管理することを好んだ。

結果、メンバーから複数回、直訴があった。これまでと違って非常にやりにくい、というものだ。

信頼の地盤が揺るぎかねない事態だったため、サブリードにやり方を変えるようアドバイスしたものの、改善は見られず。結局ぼくがリード役を引き取る形となった。

原因は、プレイヤーからマネージャーになるには根こそぎマインドセットを変える必要があるにも関わらず、きちんと時間をかけてそれを伝え、育成しなかったことだ。フラットなチームで全員がプレイヤー、という雰囲気もそれを助長した。

つまり、ぼくの無策である。

次の課題

以上の反省点を踏まえ、次なる課題は以下のとおりと考えている。

情報流の見直し

これまで、ぼく自身が見えてる範囲の情報はメンバーに共有するよう心がけてきた。

仕事の全体を見ているぼくがメンバーに伝える情報は、メンバーにとって「仕事の目的・背景・制約事項」にあたるため、知っておくほうが正しい方向に進みやすいからだ。

しかし逆に、これまでメンバーの知りえた細かな情報をぼくがプロアクティブに把握できていなかったがゆえ、ディレクションを誤りかけたことが何度かあった。

「事件は現場で起きているんだ」という言葉があるとおり、実際に起きている事実を知らないまま意思決定するのは危うい。

今は雑談・相談ベース、課題・リスクのエスカレーションベースで情報共有してもらっているが、もっと自分自身のアンテナ感度を高めなければならないと感じている。

同時に、チーム間の横の情報共有もピアピアで行われている場合が多く、かなり時間をロスしているように見える。

せっかくSlackやTeamsを使っているのだから、どうにかしてサブスクリプション型でオープンな情報共有を推進していきたいところだ。

チームのターンオーバー

チームメンバーが昇格していくということは、彼ら・彼女らの持っている仕事を次の世代に繋げなければならない、ということでもある。

もちろん、ぼくが受け持っているチームリードの立場も、他の人に任せることになるし、そうしなければならない。

しかし、そこに大きなギャップがある。ぼくの見る限り、弊社の管理職陣は「関係の質重視のフラットなチーム運営」にきわめて不慣れで、後継を任せるには相当のパラダイムシフトが必要だからだ。

特に「スキルよりカルチャー」「信じて任せきる」「上下関係でなく役割分担」「情報流は血流」の4点が難しい。

今後チームリードを任せる人はぼくが選ぶことになるのだが、これらを自然と受け入れられる素地を持つ人を探し、見極めなければならない。

場合によってはチームの若手をスキップで昇格させてリードに据える、という抜擢も必要になるかもしれない。

そのとき、いかに短い時間でプレイヤーからマネージャーへマインドシフトしてもらうか(そうリードするか)をプランしなければならない。人材育成である。

属人から(組織としての)仕組み化へ

上記「反省点」で書いた属人運営を仕組み化する話は、もう少し幅広な視点で考えると、

  • 仕事を進めるのは人である
  • 人の入れ替えも含め、組織は1つのシステム(仕組み)である
  • 継続的に品質の高いアウトカムを生み出す組織を作るにはどうすればよいか

という問いに行き着く。

一般的には「脱・属人」の文脈で「形式知化」「標準化」「自動化」と進めるのが定石だ。知恵をドキュメントに落とす、仕事から属人性を排除する、スクリプト化してしまう、などである。これは単にやればいいことだ。

一方、組織を継続するには人の入れ替わりが欠かせない。今回構築した「関係の質」重視のチームは、カルチャーフィットベースのスクリーニングをきっちり行うことに強さの根源があるため、

  • 人を惹きつけるための魅力発信の方法
  • スクリーニング時に鑑にすべきチェック観点

など、プレイヤーでなくマネージャーとして考えてきた採用にまつわることも、チームのターンオーバーにあわせて形式知化しておく必要もあるだろう。(もしかしたら、この記事がそうなのかもしれない)

「関係の質」の有効範囲と使い分け

ここ1年、「関係の質」重視のフラットなチーム運営で、反省点はあれど一定の成功をおさめてきたと思っている。

そのため今後は、この成功体験が足かせになるリスクにも注意を払わねばならない。「関係の質」重視のフラットなチーム運営は銀の弾丸ではないからだ。

今回たまたまうまくいっただけかもしれない。ピラミッド型組織によるガチガチ運営のほうがうまくいく場合だって当然あるだろう。

プロジェクトの特性やメンバーの素質によって、適切なマネジメントスタイルに切り替えられるよう、「関係の質」重視型以外の「型」も身につけるべきだ。

まとめ

リーダーであるぼくの責務は、成果達成である。

成果達成は1人ではなしえない。メンバーを集め、前向きに仕事に打ち込んでもらう必要がある。

そのためには、仕事の魅力の発信はもとより、メンバーそれぞれが自分の強みを存分に活かして成長や達成を体感できる=自分の時間を投資しても良いと思えるような環境を提供することが重要だ。

そうして行き着いた「関係の質重視のフラットなチーム」は、この1年間、課題や制約はありながらも、クライアント・自社・メンバーそれぞれにメリットのある状況を作り出せた。

当然、この「型」は銀の弾丸ではない。しかし1つの小さな成功例として、自分の昇格を機にまとめておきたかった。

この記事を読んでいただいた方の参考や気づきのきっかけになれば幸いだ。

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