「課題管理表」や「リスク管理表」ってありますよね。
ビジネスパーソンには馴染みがあるのではないかと思います。
課題やリスクを見つけ次第起票しろ、と言われるアレです。
さて、起票したはいいものの「課題っぽくない」「何がリスクなのかわからない」というツッコミを受けたことはないでしょうか。
その原因はきっと、正しい書き方(表現)をしていないからです。
要は伝わってないんですね。
では、どう書けばいいのでしょうか。
そもそも課題やリスクとはなにか
課題を書け、リスクを起票しろ。
そう言われても、そもそも課題やリスクの定義がわからないと書きようがありません。
言葉の定義がブレていると何を書いても的外れになってしまいます。
課題やリスクとは、ゴールを達成するためにやっつけなければならない敵のことを指します。
教科書的に言うと、
- 課題:ゴールに至るにあたり取り除かなければならない阻害要因
- リスク:今はまだ阻害要因になっていないが、将来そうなりうるもの
ということ。
たとえば「問い合わせが来たら30分以内に対応完了できるようにする」ということがゴールの場合、
- 課題:タイムリーかつ適切に対応するには人手が足りない
- リスク:メンバーの体調不良で人手が足りなくなる可能性がある
のようなイメージです。(ただし、この書きっぷりは全くダメなパターンです。理由は後述します。)
課題・リスクを正しく書かないとどうなるか
課題やリスクの定義がわかったところで、なぜそれを正しく表現しなければならないか、について。
ざっくり言うと、正しい判断や対応ができなくなってしまうからです。
課題やリスクをRPGのモンスターにたとえて説明していきましょう。
誤った判断につながってしまう
まずは「誤った判断」につながってしまうという側面です。
課題やリスク=モンスターの姿を正しく捉えられないと、どういうことが起こるでしょうか。
そもそも本当に課題・リスクなのかわからない
ドラクエ4にホイミンというホイミスライムが登場します。彼はモンスターですが、敵でしょうか?
違います。彼は人間になる修行を積むべく主人公の仲間になってくれる、いいホイミスライムです。(参考)
つまりホイミンはモンスターに見えながらも自分たちに害をなさない=実害がゼロだということ。
そんなホイミンの実の姿が正しく表現されず戦いを挑んでしまったとしたら・・・あなたはどう思いますか?
課題・リスクについても同じことが言えます。
正しく表現しないと、そもそもそれが課題やリスクなのかがわかりません。
実害のないものに手間ひまをかけてしまうという無駄にもつながってしまいます。
どのくらい優先的に対応すべき課題・リスクかわからない
さて、最初の街の近くを歩いていたときモンスターが現れました。どうしますか?
どうせスライムだろうし、わざわざ戦うのは面倒だ。
攻撃されても受けるダメージはどうせ1だろうから、逃げるコマンド連打で済ませてさっと次に行こう。
と思ってよく見たら、なんと出てきたのはゴーレムでした。
結局パーティーは全滅してしまいました・・・
この原因は、モンスターによって被る実害を正しく捉えられていなかったことですよね。
課題やリスクも同じです。
どの程度の実害が出るかわからず「対応しない」という誤った選択により多大なダメージを受けてしまう可能性があるのです。
実際の課題に当てはめてみると…
つまり、課題やリスクによっておよぼされる実害の有無や大小がハッキリしないと、そもそも対応すべきか、どのくらい優先して対応すべきかが判断できないのです。
たとえば上で挙げた「コールセンターの人手が足りない」という課題。
- 「タイムリーかつ適切に対応するための人手が足りない」と言われても予算には限りがあるし・・・
- 結局「30分以内の対応完了」って目標、どのくらい達成できてないんでしたっけ?解せぬ
- 実害が明らかなこっちの別課題の方に人手を割くか
となってしまいかねません。
実はものすごく害悪をおよぼす課題なのに、書きっぷりが悪くて伝わらず全く対応がなされないというパターン。悲劇ですよね。
誤った対応をされてしまう
次に、誤った対応をされてしまうという側面です。これ実は最悪のパターンなんです。
モンスターとの戦いを例に、考えてみましょう。
不適切な対応で課題・リスクが全く解決しない
敵をさくっと効率的に倒すには弱点を突くのが一番ですね。
炎属性ならば水の魔法、植物系なら炎の魔法、というように。
逆に耐性というものもありますよね。
幽霊系の敵に物理で攻撃しても全く効かなかったりします。
さて、弱点や耐性を理解して効果的に敵を倒すには、そもそも敵を正しく認識しないといけません。
目の前の敵が黒塗りで正体がわからない・・・そんな状態で戦っても倒せる気がしませんよね。
物理攻撃はすべてスカ、雷の魔法をかけるとむしろ回復しやがる。
その間にも敵はこちらのHPを削っていく。
で、フタを開けてみると、マホカンタかけて魔法を跳ね返していれば自滅するタイプの敵でしたですとか。
バトルで使い込んだ世界樹のしずくとエルフの飲み薬返せよと。
実際の課題に当てはめてみると…
課題やリスクだって一緒です。
課題やリスクの内容が正しく認識されないと、的外れな対応をされ、さらに苦しい状況に陥ります。
たとえば上で挙げた「コールセンターの人手が足りない」という課題。
- 本当の課題は人数不足ではなく「きちんとした問い合わせ対応ができる人が足りない」、だった
- にも関わらず、課題として単に「人手が足りない」と表現してしまった
- それを見た上層部は、対応として未経験の日雇いアルバイトを増員として派遣した
- 結果アルバイト教育に時間を取られ、さらに現場は苦しんだ
なんてことが起こるかもしれません。悲劇ですね(2回目)。
課題やリスクの正しい書き方のポイント
こんな悲劇を防ぐために、課題やリスクはきちんと正しく伝わるように書きましょう。
以下、書くときのポイントを挙げていきます。
前提:課題やリスクが阻害するゴールを明らかにする
まずは前提。課題やリスクはゴール達成の阻害要因について書くものでした。
であるならば、ゴール達成のための条件が事前に明らかにならないと、課題やリスクなんて書けません。
たとえば、
- プロジェクトであればQCD(Quality、Cost、Delivery)
- コールセンターであれば顧客満足度や対応完了までのリードタイム
- 店舗運営であれば売上高や在庫水準の遵守度
など、仕事においては満たすべきKPIやKGIがあるはずですので、まずはそれらを把握します。
上の「人手が足りない」の例で言えば、「対応完了まで30分以内」というのがそれです。
課題やリスクによる実害が伝わるように書く
次に、課題やリスクがどのように、どの程度KPIやKGIに悪影響(実害)をおよぼすかを明確にします。
このとき、何が起こっているのか(原因と現象)その悪影響(実害)を分けて書くことを意識すると、実害部分がより際立ちます。
「人手が足りない」の例で言うと、
- 問い合わせにタイムリーかつ適切に対応するには人手が足りない
ではなく、
- 問い合わせ数の増加により(原因)対応人員の稼働が逼迫(現象)しており、問い合わせの25%について対応完了まで30分以上かかってしまっている(実害)
というふうに書くべき。そうすれば「KPI満たせてないなら対応せねば」となります。
もちろん、課題やリスクを誰が見るのかによって実害部分の書きっぷりは変わってきます。KPIで評価される人ならKPIへの影響を書けばいいし、それ以外の指標で評価されるならその指標への悪影響を書けばよいです。
課題やリスクが解消されるとどうなるか、目指す状態がわかるように書く
最後に、起きている現象の書きっぷりを見直します。
課題やリスクを伝える目的は、必要な(適切な)対応を取ってもらうことのはずです。
であるならば、適切な対応がなされるような書き方で起きている事象を表現しましょう。
「人手が足りない」の例で言うと、
- 問い合わせにタイムリーかつ適切に対応するには人手が足りない
では足りません。本当の課題はスキルを持った人が少ないことであり、目指す状態はスキルを持った人が十分な数そろっていることでしたよね。
ならそう書けばいいのです。
- 問い合わせにタイムリーかつ適切に対応するスキルを備えた人材が不足している
というように。
こうすれば、今いる人材に研修を受けさせるなり、外部からスキルフルな人を採用するなり、なんらかの対応が考えられるはずです。
今すぐ使える、課題やリスクの正しい書き方
以上、課題やリスクの正しい書き方のポイントをお伝えしました。
これらのポイントをおさえた正しい書き方テンプレートを置いておきます。
これは、外資コンサルで管理職をしているぼく自身が自己レビューのために使っているものであり、また部下や後輩に指導するときも必ず教えているものです。
課題の正しい書き方テンプレート
(原因)による(現象)のため、(実害)が起こっている。
例:
- 上司のレビュー遅れにより、自分の資料作成タスクが進まないため、明日の役員報告までに資料が完成しない。
- 近隣で急遽イベントが開催され、来客急増に伴う品切れが起きており、機会損失が発生している。
- IT部門・業務部門間の連携不足により、システムへ業務要件が十分に反映されず、業務効率化の効果を享受できていない。
リスクの正しい書きテンプレート
課題と似ていますが、末尾がちょっと違います。
(原因)による(現象)が起きた場合、(実害)が起こる可能性がある。
リスクは将来的な阻害要因を扱うものなので「可能性がある」や「なりかねない」といった言い回しになります。
例:
- 上司のスケジュール逼迫により、資料レビューの時間確保が難しかった場合、役員報告資料の品質が担保できない可能性がある。
- 近隣でイベントが開催され、来客が急増した場合、品切れによる機会損失が発生しかねない。
- IT部門・業務部門間の連携不足により、システムへ業務要件が十分に反映されなかった場合、目指していた業務効率効果が得られない可能性がある。
ひとつ気をつけたいのは、リスク管理表に書く場合、語尾を言い切り型にした方が好みだという人がいるかも、ということ。
「これはリスクを書いているんだから『可能性がある』とか書かなくてもいい」というタイプの人もいるので、時と場合に応じて書きっぷりを変えてください。
書き方だけでなく「影響度」も意識する
さて、ここまで課題やリスクの正しい書き方=表現方法にフォーカスしてきました。
一方、課題管理表やリスク管理表にはすべからく「影響度」というカラムがついているもの。
言葉で表現した課題やリスクについて、それがどのくらい優先的に対応しなければならないかを識別するための属性値です。
- 課題:実害の大きさによって大中小を決める
- リスク:発生確率と発生時の影響それぞれについて大中小を決める
大中小の判断基準は組織やプロジェクトによってまちまちですが、必ず基準があるはずです。影響度を付記する際にはそちらに準拠するようにします。
個々人が好き勝手に「影響度は大だ」と言い始めると優先度判断がままならなくなってしまいます。
何が言いたかったかというと、表現方法を含めて、課題やリスクの影響(実害)を無駄に大きく見せかけるのはよろしくないですよと。
まとめ:正しい表現は、正しい行動の源泉
というわけで、課題やリスクの正しい書き方のお話でした。
今回はプロジェクトにおける課題やリスク管理を意識して書きましたが、
- クライアントからヒアリングした課題やリスクを整理する
- 現場から上がってきた意見を課題として集約する
など、課題やリスクを適切に書くという行いは、様々なシチュエーションで応用可能な汎用スキルです。
覚えておいて損はありません。
また名著「イシューからはじめよ」にあるように、正しい判断や行動のためには正しい課題認識が必須です。
そして、仕事はチームプレイ。課題やリスクが人に正しく伝わることも同じく重要です。
課題やリスクの書き方ひとつで仕事の成果がガラッと変わる、なんてこともあるんですよ。
ぜひ書き方を覚え、人と自分、組織、そして会社を正しく導いてください。
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