仕事のスピード感を落とす「組織のサイロ化」は、経営レベルで取り組むべき課題です。
しかし、企業の中には組織はおろか、社員のメンタルまでサイロ化が進んでいることもしばしば。
では、どうすればいいのか?
そこで今回は、組織のサイロ化とうまくつきあう=悪影響を最小化するために、ぼくが個人的にやっていることを4つ共有します。
サイロ化した組織のせいで仕事スピードが落ちて嫌気がさしている方の参考になればと思います。
組織サイロ化問題の悪影響とその原因
組織のサイロ化による悪影響を一言でいうと、連携スピードの欠如です。
仕事は「判断」「連携」「作業」の3つの要素で構成されているのですが、組織のサイロ化は「連携」に重篤な影響をおよぼします。
- 判断:意思決定
- 連携:関係者コミュニケーション
- 作業:各人が一人で行うタスク
具体的にどう悪影響をおよぼすか、その原因とともにひもといていきます。
1) 決裁権限者の時間が取れない
サイロ化された組織において組織またぎの意思決定ができるのは、それら組織を統括する人です。
たとえば営業本部の下に営業1部、2部、3部があるとしたら、1~3部横断の課題に決裁を下すのは、営業本部です。
営業1~3部の部長から営業本部長にエスカレーションがいき、営業本部長が判断をする、という流れになるでしょう。
ここでボトルネックになるのが、上の人のスケジュールです。
上の人は責任範囲が広いぶん忙しいため、なかなか時間を確保できません。「次回相談タイミングは1週間後」などザラです。
結果、組織横断の課題にタイムリーな判断を下すことが難しくなっていきます。
2) 「合議制」に陥りやすくなる
すると、なにが起こるか。
営業1~3部の部長陣は「本部長レビューを一発で通そう」とするんです。
しかしサイロ化された組織の長は、1つ上の視点で判断できません。自分の職掌ではないからです。
となると、できることは1つ。関係者全員が合意したことを決定事項とする「合議制」です。
今回の営業1~3部の場合、3部長の総意をとりまとめてから、営業本部長に上程する、という段取りになるでしょう。
しかし、いくら合議したとしても、出てくるのは1つ上の目線がすっぽ抜けた単なる意見にすぎません。本部長の意思1つでひっくり返ることも十分に考えられます。
すると「1週間後に再チャレンジ」のように判断が遅れてしまうことになるのです。
3) スケジュール調整で時間が食われる
営業1~3部の部長陣が合議するとなると、大変なのがスケジュールの調整です。
関係者が増えれば増えるほど、全員が都合のつくスロットは限られていきます。
各自のスケジュールの空きが、ボトルネックになってしまうのです。
合議する時間がそもそも取れないとなると、本部長に総意を伝える以前の問題でしょう。
そうして「管理のための管理」「調整のための調整」がはびこり、仕事の質もスピードもどんどん落ちていきます……
参考 管理のための管理のための管理…管理で消耗し続ける大企業病の悪循環
組織のサイロ化とのつきあい方
では、これらの悪影響をおさえるため、どう上手につきあえばいいのでしょうか?
ぼくがこれまでやってきた範囲で「効いたかも?」と感じた、4つのポイントを共有します。
1) 先手で段取りを設計しきる
先3ヶ月くらいまでのコミュニケーション段取りをすべて最初に作りきります。
なぜなら、スケジュールは近いところから埋まっていくからです。
逆にいうと、遠いところなら調整がつきやすいので、先々まで読みきって一気にスケジュールをおさえにかかります。
いつ、誰と、何を相談し、何を決めるのか。プロジェクトのゴールから逆算して、あらかじめ時間を確保しておくのです。
実際、決めることが主眼の戦略系プロジェクトでは、3ヶ月くらいのスパンであれば、会議各回のアジェンダ・決定事項・持参資料や想定参加者まで作り切っておきます。
2) 想定外のとき用の相談時間を確保する
仕事はすべて想定どおりに進まないことがほとんどです。
そこで会議の日程設計に、想定外の場合の相談時間を組み込みます。方法は2つあります。
- 会議を早く終わらせ、余り時間で相談する
- 会議と別に、相談用のスロットを確保する
よほどのことがない限り、「1.余り時間で相談」を推奨します。議題の討議をささっと済ませ、余った時間で想定外の相談をする形です。純粋な時短なので、こちらのほうが相手も自分もハッピーでしょう。
そのために、会議でなにをどう議論して決めるのか、事前に設計しておくことが重要です。詳しくは下記記事「会議の極意」でも解説しています。
参考 議事録を会議前に書き終える?元MENSAの敏腕コンサルに学ぶ会議の極意
3) 草の根的な「雑談」を続ける
組織がサイロ化すると、次にサイロ化するのは人間です。
社員一人ひとりにまで「部門の壁」が染みこみ、担当者間コニュニケーションができなくなってしまうのです。
結果、あらゆる部門間コミュニケーションが「部長経由」になってしまいます。
もちろん、部長レベルでの合意が必要な事項ならかまわないのですが、担当者間で話せば済むことすら「部長を通す」となるのは問題でしょう。
部長のスケジュールがさらなるボトルネックになってしまい、仕事スピードがさらに失わてしまうからです。
- 最終的な合意など、公式なコミュニケーションは部長間で
- 事前調整や確認など、非公式なコミュニケーションは担当者間で
このような状態を保つには、担当者レベルなら気軽に話ができるよう、少なくとも個人対個人のレベルで「部門の壁」を和らげておく必要があります。
挨拶したり、折にふれて雑談をふっかけるのは良い手段でしょう。
参考 組織の風通しや生産性を地味に底上げする「朝の挨拶」を導入してみた結果
4) 役割分担を再定義する
そもそもの役割分担(職掌)を再定義することも有効ではあります。
組織がサイロ化する原因は、組織構成と役割分担が密結合していることです。この密結合をほどく新しい役割分担を与えることで、役割を再定義します。
たとえば「プロジェクトチーム」や「タスクフォース」と呼ばれるものは好例でしょう。(立ち上げは結構骨が折れますが……)
ここで重要なのが、横串組織に少し大きめの「錦の御旗」を与えることです。
サイロ化された組織における「部門の壁」は思う以上に厚いもの。壁を超えて動きまわる横串組織への風当たりは当然、強くなります。
すると、せっかく作った横串組織なのに、現場の抵抗勢力に萎縮して動きが鈍ってしまい、役割を果たせなくなってしまうのです。
これを避けるには、横串組織に「オレらは自由に動いていいんだ」と言い切れるネタを与えます。これが「錦の御旗」というわけです。
たとえば「社長直下で動いている」「全社改革の筆頭、最優先の取り組みである」など、なんでもいいです。
役員レベルや社長など、立場が上の人から高らかに宣言してもらうと、より効果が高いでしょう。
参考 上司を動かす!仕事の生産性を高める「ツール」として上司を使い倒そう
「アメーバ型組織」は事業会社では無理?
縦割りサイロ化組織を見るたびに頭をよぎるのが、「社内人材市場」「プロジェクト型組織」という言葉です。
- 社内の人材(スキル)が市場のような形でゆるく管理されている
- ビジネス要請でプロジェクトが立ち上がると、そこに人が集まる
- ゴールを達成したら、各人は社内人材市場に散っていく
こうして人材が離散集合しながら、アメーバのように伸び縮みしながらビジネスを動かしていく……
このように液体のように形を変え続ける「アメーバ型組織」ができれば、縦割り組織やサイロ化の問題は一気に解消されうるのになあ、と。
クリエイティブ製作会社やコンサル企業、SIerではできて当たり前の動きかたなのですが、「運用」の側面が強い事業会社では難しいのでしょうか。
まとめ:サイロ化は経営レベルの課題
組織のサイロ化による悪影響とうまくつきある個人的な4つのコツをまとめると、以下の通りです。
- 先手で段取りを設計しきる
- 想定外のとき用の相談時間を確保する
- 草の根的な「雑談」を続ける
- 役割分担の見直しを迫る
これらはあくまで「個人のレベル」でできることですが、そもそも組織のサイロ化は経営レベルで取り組むべき課題です。
実際、ぼくの所属するコンサルティングファームでは、定期的に行われる「組織健康度チェック」アンケートにおいて、質問トップに「組織はサイロ化していないか?」が出てきます。
組織のサイロ化がどれだけ会社のビジネスパフォーマンスに悪影響をおよぼすか、経営陣が痛いほど理解している証拠でしょう。
そんな会社にいるぶん、クライアント企業が「組織のサイロ化」でスピード感が失われているさまを見ると、もったいないなあと感じるのです……
みなさまの会社はいかがでしょうか?
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